5日目は、超高齢社会におけるビジネスのあり方について、岩名さんにご講演いただきました。今回は、菊池市のKiCROSSを会場に、きくち、やまがの2つの塾が現地参加し、あそ、やつしろ、なんと、こまつの4つの塾がオンラインで参加しました。講師の岩名さんには、毎年塾で講義いただいています。
「超高齢社会地域ビジネスの可能性」
~地域包括ケア時代の生活支援市場を展望する~
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 岩名礼介氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 社会政策部主席研究員 岩名礼介氏
今日は、高齢者だけではなく 障害のある方なども含めて、生活に困ってる方全般に関わる話と捉えてお聞きください。
初めに、日本の人口動態が、高齢者から見るとどうなっているのかをお話しします。高齢者と言うと何歳からでしょうか。65歳ですよね。介護の世界では、65歳はあまり問題にはなりません。75 歳以上がポイントという考えが今は一般的です。65歳は、働いてる人もたくさんいるので、75歳ぐらいからというのが学者の間でもずっと言われています。でも75歳も結構元気ですよね。問題は元気じゃなくなってきたなと思うのは何歳くらいからか、ということです。個人差もありますが、大体80から85歳です。介護保険を利用するには要介護認定が必要ですが、認定を受ける最初の年齢の平均が82歳ぐらいです。つまり、82歳ぐらいになると身の回りのことでいろいろ気をつけなくちゃいけないことが増えてくるということです。免許返納するお年寄りも80代前半が多いんですよ。ちょっといろいろなことに自信がなくなってくる。いろいろなことがちょっとできなくなる。つまり、85歳は、生活が完全には一人で成り立ちにくくなってくる年齢なのです。ですから、85歳以上の高齢者が増えてくるのが今後の最大の問題です。
実は75歳以上の人口はあまり増えなくなっていて、今後は横ばいです。団塊の世代、戦後まもなく生まれた人たちが今70歳代後半です。まあまあ元気でまだいろんなところで活動されてる方もいるので、世の中的には誰かのお世話になっているという感じがありません。ところがあと5年するとこの85歳以上のところに入ってくるので一気に地域の中で人助けが必要になる人が増えてくることになります。
今から15年後の2040年には、全国で85歳以上の人が1000万人ぐらいになります。この頃になると日本の総人口はかなり減ってくるので、ざっくり1割が85歳以上になります。2000年ぐらいは1.8%だった割合がここまで上がってくるので、社会的にも1人で生活するのはとても難しくなります。
そしてもう1つ大事なことは、これからは圧倒的に一人暮らしが多くなるのです。そして、ちょっとのことができないだけで生活が成り立たなくなる高齢者が増えるのが、地域の最大の問題となってきます。要支援1、要支援2の軽度な人が増えてきます。自分でトイレには行ける、着替えもできるし、歩くのは家の中だったら大丈夫だけど、外に買い物に行ったり、ちょっと重いものを持って出かけるとかはできないというのがこのレベルです。ご飯作るのもちょっと厳しいとかね。要介認定率が80歳くらいから急に増えて、半数くらいの人がサポートを必要とすることになります。
また、85歳を超えるとほとんどの人が、介護保険は使ってなくても、できないことが増えてきます。家族が一緒についていかないといけないとか、書類を読んで判断するとかが難しくなるのです。完全に何かできない、というよりは、ちょっとずつなにかできない人が地域の中にあふれ返るというイメージです。
一方で、介護サービスを担う介護職が不足してくるとか、介護事業所が倒産しているとか、これは全国的な問題で皆さんの地域だけの話ではありません。大都市部でも介護事業は苦しいのです。介護職の人数は、2000年でに55万人でした。2023年では212万人です。つまりこの間介護職員は増え続けているのです。しかし今がピークだと言われています。つまり、介護保険のサービスを使ってる人の数はどんどん伸びていて、サービスを提供する福祉従事者もものすごく増えてきました。ただ、全体的には、不足感が全然解消しない状況です。
この30年間、労働者人口は増えてきました。増えた分は主に高齢者と女性が担っていて、労働市場は潤っていました。そして、増えた分はほとんどが介護事業所が吸収してきました。しかし、この5年ぐらいは労働人口の伸びが止まっています。つまりで女性も高齢者ももう限界なのです。しかし、要介護者の数は増えていきます。これまでは何とかなってきましたが、これからは十分なサービスの提供が難しくなる、ということです。
高齢者のニーズの市場化についてですが、これからは高齢者のちょっとできないことを介護専門職がカバーできなくなるので、それを市場に出す、ということです。ルールによる制限が厳しい介護保険の枠ではなく、一般の民間企業に参入してもらうのです。今日お伝えしたいことは、皆さんに介護事業所になってほしいということではなくて、介護事業所がニーズに対するサービスを提供できなくなるので、それを別の形で担えないか、という話です。
介護保険の範囲には身体介護と生活援助がありますが、生活援助には資格は必要ありません。民間のサービスを少し改良するだけで、ヘルパーの代わりにできることがたくさんあります。具体的には、掃除機をかけたり、トイレ掃除・拭き掃除・風呂掃除をしたりなど、生活援助にあたるものが、利用されるサービスの多くを占めているのです。
介護保険の枠組みでは、例えばデイサービスでは、サービスがパッケージで提供されます。このサービスをバラバラにして、必要とされているものだけを提供するようにしたらよいと考えています。他のサービスでも同様で、例えば、買い物の後で買ったものを家まで届けてくれるサービスは、自分で選んで買いたいけれども運ぶのが難しいというニーズに合ったアプローチです。移動販売なども増えてきていて、新しいビジネスとして広がってきています。
実際に今では、燃やすごみをゴミステーションに運ぶサービス、洗濯サービス、料理の作り置きサービスなど、いろいろなサービスがビジネスとして提供されています。
<グループ1>
・子どもたちの習いごとの先生をしていますが、子どもたちが通ってくるのは夕方以降なので、日中の時間に高齢者サービスをサイドビジネスとしてできそうだと思いました。
・実家が家電店をやっていて、テレビや冷蔵庫の設置などお客さんの家に出入りする仕事をしていて、子どもの頃には一緒に行ってお客さんの家のちょっとした手伝いをしていました。そんなことが今紹介いただいたことにあたるのかと思いました。
<岩名>
ダスキンがとても安価にモップ交換などのサービスを提供しています。それは、いったん家に入れてもらったら、次のサービスを買ってもらうハードルが下がるということを利用して、最初にビジネスにならなそうなサービスを買ってもらうというやり方です。
<グループ2>
・美容師です。デイケアに、あるいは客さんの自宅にカットに伺ったりするのですが、そのときに、もっとサービスを受けたいけれどもお金が足りないので、働かないといけない、という人が増えたような気がします。サービスが受けられる人、受けられない人の差も広がったのではないでしょうか、という話をしていました。
<岩名>
東京などでは、自費サービスに毎月100万円単位で使っている人もいるということで、格差は広がっています。サービスが買えない人には、国の所得政策としてきちんとやるべきだと思っています。皆さんがサービスを考える際には、そのあたりはあまり気にせずに普通のビジネスとしてみていけばよいですね。趣味や嗜好性の高いものは、金額が高くなっても買う層はある程度います。それがないと生活できないものについては、価格を下げるというよりは、行政がサポートすべきところではないでしょうか。民間の人にはもっと自由に考えてほしいです。
<グループ3>
・布団店を営んでいます。高齢者の布団について、クリーニングとカバーの取り付け、布団の入れ替えなどを合わせてビジネスにできるのではないかという話になって、私にも新しい発見でした。
<岩名>
ついでに布団の入れ替えをしてあげる、ということですが、この「ついで」がとても大切なキーワードですね。
<グループ4>
・農業を営んでいます。農業は人手不足で、高齢化もしています。介護の世界で労働人口が増えたにもかかわらず人手不足なのだとしたら、農業の人手不足はいつになったら解決できるのかと思いました。
<岩名>
愛知県では、車の売れ行きがよくなると介護職が不足するという現象が起きています。また、失業率が高くなると介護職に就く人が増えます。ただ、介護と農業はあまり競合しているということはないような気がします。
<グループ5>
・飲食業と農業をやっています。農業は、今年新規就農したので、今後は人材について考えていかないといけないのですが、知り合いが就労支援をしていて、障害のある子どもの農業体験などが提供できないかと考えています。ただ、お金が発生するという点は難しいと思っています。そういう子どもたちが働ける仕組みづくりに取り組めたら、人材不足解消にもつながっていいかと考えたりします。
<岩名>
地域課題を解決する取り組みを行ってもお金が稼げるとはあまり思っていません。ただ、地域課題に取り組んでいる事業所と取り組んでいない事業所でどちらが魅力的な働き場所だとみられるか、という点で大きな差を生み出します。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 社会政策部主席研究員 岩名礼介氏
前半は、高齢者のニーズにどう対応していくかという話をしました。後半では、市場の高齢化にどう対応するかという話をします。
未来創造塾を行っている4つの市を例に、生産年齢人口、75歳以上人口、85歳以上人口の推移のグラフを見ると、どの市も、高齢者の人口のグラフと生産年齢人口のグラフが年を追うごとに開いていって、ワニの口の形になっています。85歳以上のグラフ方が口の開き方が大きくなります。前半でもお話ししたように、高齢者対象の介護サービスの需要予測をする際は、85歳以上で考えたほうがよいと思います。例えばドラッグストアで考えると、商圏はだいたい1㎞圏内と言われていますが、お客さんが来られなくなると考えると、どれだけ頑張ってもターゲットは小さくなっていくということです。
これからは高齢者フレンドリーな、高齢者が使いやすいサービスを提供していく必要があります。スーパーなどでもパックの魚や総菜の量が少なくなっています。一人暮らしの高齢者に合わせたからです。高齢者の特性に合わせてアプローチするのが重要です。スポーツクラブでプールに長いスロープを設けたり、エアロバイクの横に台を置いて乗り降りしやすくしたり、工夫することで、高齢者が「まだできる」という気持ちになれるようにしています。低床バス、血圧計のあるゲームセンター、スーパーのスローレジなどさまざまな工夫によって、高齢者が社会参加している時間を少しでも長くすることが、介護予防には大切です。
電気製品を髙く売るけれどもちょっとした困りごとに対応してくれるでんかのヤマグチ、高齢者用アパートと学生アパート、訪問診療所やカフェなどが一緒になっているのびしろハウスなども事例も面白いですね。
私が子どもの頃と比べると、今は制度やサービスは充実しています。しかし孤立する人が絶えないというのは地域の問題です。これは孤立するまでのプロセスの中で問題が複雑になってしまったから起こっている問題です。人とのつながりがなくなって、どうなってもかまわない、と考えるようになることが問題の発端です。社会の中で柔軟性のある何かが、人との間のつながりを失わないように助けてくれる社会、家族だったり友だちだったり職場だったり地域のお祭りだったりの中で、困ったときに助けてくれる誰かがいる社会が必要だと思います。行政の仕組みのような硬いものではなくて柔軟な何かをどうやって作るかを考えることが大切です。縁側のような、人と人が自然に繋がる仕組みが重要なのです。
人が集まったり通過したりするような、地域の交差点のようなところにビジネスの入り口をつくって、表向きの売り上げよりも、そのあといろいろなものにつながっていくことに意味があるのではないかと思います。これからは、人がどんどん足りなくなって、AIが答える電話、セルフレジなどが増えてきて、そこから置いて行かれるひとは孤立する、という構図になります。隙間や非効率性をあえて請け負いながら、そこに付加価値を求める、そういう取り組みが地域ビジネスの大切な存在意義になると考えます。
<グループ6>
・私自身もデイサービスでリハビリをやっていた経験もあって、一次予防に特化したフィットネスもやりたいと考えていますが、私たちの班では、「ついで」「ながら」という発想がいいと思いました。また、高齢者に寄り添ったサービスという考え方が、改めて勉強になりました。
また、高齢者対象のサービスについて、料金的なことがあまり関係がなく、むしろその存在をどう知らせれば高齢者に届くのかがわからない、という話が出ました。
<岩名>
高齢者の貧富の差は確実に広がっています。特に、企業に就職している人が増えて厚生年金受給者が増えて、国民年金だけだった人が少なくなってきました。厚生年金だとそれなりの金額があって、そのことは客観的に受け止めたほうがいいですね。
高齢者へのアウトリーチについては、行政がきちんと行うべきです。行政がサービスを紹介する際に、どの民間企業もオープンに紹介することが大切です。ぜひ、地域包括支援センターや生活支援コーディネーター、ケアマネージャーとつながることを心がけてください。
<グループ7>
・放課後児童クラブを運営しています。子どもたちを対象としていますが、子どもがどんどん減っている中でどう運営していくかが今後の課題です。ただ子どもを預かると言っても子どもは集まってくれないので、何か付加価値をつける必要があります。子どもの家庭環境にも格差があって、高齢者の話と似ている部分があると思って聞いていました。
<岩名>
子どもと高齢者はとても相性がいいんです。子どもと高齢者が一緒にいる間に、母親がお茶を飲んだりできるような施設もあります。ごちゃまぜにすることで自然な状態に戻って過ごすことができるようです。