3日目の塾は熊本での合同講義となり、やつしろ、あそ、あまくさ、きくち、やまがの5塾が熊本市国際交流会館に集まり、たなべ、こまつ、なんとの3塾がそれぞれオンラインで参加しました。
この日は、地域活性化論③「人口減少から生じる地域課題とビジネスチャンス」と題して、以下のように講義いただきました。
・「人口減少から生じる地域課題」
・「地域課題を解決するローカルイノベーターたち」
熊本大学 副学長・教授 金岡 省吾氏
・「未来創造塾修了生たちの地域課題解決事業」
熊本大学 客員教授 鍋屋 安則氏
・「自分たちの地域は自分たちで守る」
岡本農園 代表/(株)日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ塾1期)
熊本大学 理事・副学長 大谷 順氏
現在、熊本大学は地域課題を解決するCSV人材、社会的価値を見出す人材を育成し、彼らのビジネスを社会に実装することを目指して、県内に6カ所、県外に3カ所、未来創造塾を開講しています。今までで、総勢421名の修了生を輩出しています。また今年6月に、日本商工会議所青年部と人材育成の連携に関する覚え書きを締結し、新たに愛知県蒲郡市、群馬県桐生市において、塾を開講しました。
この未来創造塾を起点に、高校との連携も強めており、都市圏企業との連携による越境学習事業を行っています。高校連携では、県内外で11校、2,300名近い生徒を対象に事業を実施していて、その中で多くの塾修了生が講義をしている状況です。この事業を通して、高校生の地域理解が深まり、将来は帰ってきたい、あるいは地元に関わりたいという意識変容が起こっています。
既にメディアでも紹介されていますが、熊本大学では来年4月から共創学環という新しい教育プログラムを開始します。今後さらに地域社会の様々な課題の解決に貢献できる人材の育成を一層進めていきたいと考えています。
熊本大学 副学長・教授 金岡省吾氏
前回は企業と地域の新しい関係を紹介し、地方創生とはなにか、人口減少はどうして起こっているのか、そして、地方創生に取り組む大人の姿を見て若者の意識も変化してきている、という話をしました。皆さんにはぜひ、地方創生とは何かを、自分の言葉で語れるようになってほしいと思います。また、人口減少については、RESASで入手できる「年齢階級別純移動数の時系列分析」のグラフを用いて、人口の社会移動について話ができるようにもなってほしいです。
地方から都市部への人口が流出し、さらに都市部の低い出生率によって人口減少に拍車がかかっていることや、進学や就職のタイミングで、あるいは結婚・子育てのタイミングで人は移動します。就職したくない、子育てしたくない、といった地域には人は定着しません。そこで、地域に魅力を作り出すことが必要になります。大学などで塾修了生の話をすると、地方にいるのはカッコ悪いと思っていたけれども考え方が変わった、という感想を話す学生が出てきます。
人口減少によって経済が停滞する、個人消費が減る、買い物をする場所がなくなる、ガソリンスタンドがなくなる、耕作放棄地が増える、学校が減る、病院が減るなどなど、さまざまな課題が発生します。また、このような状況は、地方だけでなく都会でもあちこちで起こっています。そして、その状況を改善しようと、塾生・塾修了生、地域の団体や企業がさまざまな取り組みを行っています。
それぞれの地域でどのような地域課題が生じているのか、話し合ってみてください。
熊本大学 副学長・教授 金岡省吾氏
いろいろな生活サービスがなくなっていく中で、国もそれについて考えるためにいろいろと調査をしてデータを提供しています。例えば、国土交通省が提供している「サービス施設の立地する確率が50%及び80%となる自治体の人口規模」のグラフからは、どの程度の人口規模があると、例えばハンバーガー店が維持できる、というような情報を得ることができます。民間事業者では維持できなくなるようなサービスを地域住民が出資して再興するような取り組みが各地で見られます。直売所やバス、介護サービス、ガソリンスタンドなども、地域が支えることで維持されているものがたくさんあります。ボランティアではなく、ビジネスとして地域の課題をどう解決し、地域を活性化していくか、ということです。農業の分野でも、農家レストラン、加工場、直売所などを作り出して、耕作放棄地を減らしながら地域経済を回していく仕組みが実現されています。地域と企業の関係が変わり、いろいろな形で地域住民が応援することで、その企業やサービスが存続できるということです。
新たな公という考え方で、大きな黒字にはならないけれども、生活サービスが継続できるという仕組みは、これからは、NPOなのか企業なのか地域団体なのかわかりませんが、誰かがビジネスとして担っていくことになるのだと思います。
将来の人口を見据えて、地域の将来像を構造的に考え、どういった課題が生じるのか、地域発のどのようなイノベーションが必要か、を考えましょう。企業誘致は本当に重要ですが、熊本のような半導体企業誘致などができるところは本当に少ないと思います。そこで、地域で起業を増やして地域発のイノベーションが大切になります。小さなイノベーションでもたくさん実現することで、地域は変わっていきます。
① 小さな思い付きから始めても、人が繋がって増えていくのだと思いました。補助金とかではなく、自分から動き出すことが大切だし、そのほうがおもしろそうだと思いました。
② 目の前の課題に取り組むと、自然発生的につながりができて大きくなっていくし、ストーリーができると思いました。やりたいところから始めてみることが大事だと思いました。
③ 鮮魚店が居酒屋を始めたことでプラスの循環が始まったと思いますが、それ以前にも地域の高齢者のために配達をしておられて、信頼があったから応援されたのかと思います。
※ 買い物のときの何気ない会話の積み重ねが信頼につながっているのだと思いますね(鍋屋)。
④共助という言葉に効きなじみがなかったという話が出ました。公助だけでは難しいことは感じていました。共助からコミュニティづくりに取り組むことが重要だと思いました。
※ 瓶の中に積み木を入れると、どうしてもすきまができる。公助はそんな感じで、その隙間を埋めるのが共助だという話を、三菱UFJの岩名さんからお聞きしたことがあります(鍋屋)。
熊本大学 客員教授 鍋屋 安則氏
高齢化や地域の小売店やスーパーの撤退による買い物難民という地域課題について考えてみましょう。解決の取り組みの1つには、移動スーパーがあります。他にも地域の事業者でお金を出し合って乗り合いバスを走らせて、買い物できるところまで運んであげるという取り組みもあります。
ここで重要なのが自助、公助、共助の考え方です。公助は、行政が税金を使って解決する事業で、福祉事業などがそうです。しかし、人口減少が進む中では限界があります。そこで今重要だと言われているのか共助です。民間企業がビジネスとして共助の社会を作り、売上を上げながらみんなで暮らし続けられる社会を作るという形です。
ここから初山鮮魚店の事例を紹介します。初山さんは、田辺の塾の3期生です。鮮魚店のある地区は、2050年には人が50%以上減ってしまうと予想されている地区です。塾に参加する前から、店でつくっている総菜を近所の高齢者に配達していました。彼が未来創造塾で発表したプランを紹介します。彼が着目した地域課題は買い物難民でした。特に農村部になると買い物できる場所が減ってきています。また、彼の課題は、鮮魚店と並ぶ自社テナントが空店舗になっていることでした。彼もプランは、鮮魚店でつくっている総菜を使ってイートイン居酒屋を経営して、高齢者コミュニティをつくるというものでした。
でもそれを始めたことで実際に人が集まり出して、初山横丁ができてきたのです。4期生のブドウ屋さんも空きテナントの軒先でお店を出したところ、結構売れるようになりました。さらに肉屋さんも入ったりしてお客さんでにぎわうことになったのです。これも共助とか、コミュニティをつくるとかの事例になるかと思います。
岡本農園 代表/(株)日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ塾1期)
私は未来創造塾1期生で、合同講義というものがなかったのですが、今日初めて会うという人ばっかりだと思いますが、それが今後の人生に影響をもたらしてくれると思います。たなべ未来創造塾では、「農人と森の番人プロジェクト -僕らの畑は僕らで守る-」というタイトルでビジネスプランをつくり、それから10年程活動してきました。和歌山県田辺市の中山間地域で続く3代目のみかん農家です。高校卒業後、約 8年間白浜町でサービス業界で働いていました。家業が農業で、長男なので勝手に自分で継がないといけないと思っていました。それで、父が体調を崩したタイミングで農業を始めました。
今は、岡本農園の代表と株式会社弊社日向屋代表取締役、田辺市観光協副会長もやっています。弊社の企業理念は、地域の課題を解決しながら持続可能な地域づくりをすることです。農業は深刻な課題に直面しています。人口減少、高齢化です。人が出ていってしまって地元に残らなくなり、農業従事者が減って耕作放棄地が増える、そして、鳥獣害の深刻化、です。さらに、ハンターも数年前からいません。農業は5Kとか言われて、結婚できないとか言われています。誰が農業を担うのでしょうか。農業に関心を持って調べてみたらこんな情報に出合ったら、やりたくなくなりますね。こんなイメージを払拭しなかったら、農業をする若い人はいなくなる、実際私も子どものときに父を見て、農業をやりたいとは全く思いませんでした。ただ、農業を始めたときに父が、お前に任せるから好きなようにしていい、と言ってくれて、人と会って直接販売する、飛び込みで営業する、という農業を始めました。
私たちの最初の挑戦は、鳥獣害対策でした。鳥獣害は共通の課題だったので、地元の農家に声をかけてみんなで狩猟免許を取ることにしました。最初の1年間で害獣を120頭ほど獲りました。最初は面白さもあったのですが、次第に虚しさを感じるようになりましたし、こんなことを子どもにやらせる気にはなりませんでした。そこで、ジビエ施設を誘致することにしました。しかし私は農業従事者であって、ジビエ施設を運営するわけにはいかないので、考えていたところ、市会議員からジビエ施設に関心のある人がいると紹介してもらい、ジビエ施設を誘致することができました。場所も、地域の区長会などでお話ししたところ、この施設は地域に必要だから地域一体となって誘致しようということになり、地の利のいい場所に建設することができました。必要なイノシシなども地域で摂れたものを提供してもらえることになりました。
さらに、ジビエ施設を観光資源にして市外から人に来てもらったり、さらにジビエを利用したフランス料理を作ってみたいという地元出身のシェフも戻ってきてくれて、料理を提供したりなどできるようになりました。人との出会いは本当にたまたまですね。そしてみんなで分業しています。現在弊社は、鳥獣害対策のための狩猟活動、狩猟体験などのジビエ事業、耕作放棄地の再生、農作業の受託、加工品の製造・販売などに取り組んでいます。他にも、子どもたちへの食育、移住者・農業研修者の受け入れなどもやっています。
未来創造塾に入ったのは、農業以外の人たちとの横のつながりがほしかったからです。塾に参加していろいろな人とのつながりを通して、広がりができました。地域課題を解決しながら新たな価値と収益を生み出し、地域をよくするための持続可能なビジネスモデルになりたいと思っています。成功するか失敗するかはわからないけど、小さく始めて大きく育てるために、とりあえずやってみようという思いです。実際、だんだんと大きくなってきていますし、働きやすい環境づくりにも取り組んで、持続可能な農業を実現していきたいと考えています。
Q:一日6時間の勤務でうまく運営できるものでしょうか。
A:夏場の暑い時期は、朝6時から11時迄の勤務で何とかなっています。ただ、収穫時期だけは難しいように思います。
Q:狩猟チームをつくったり、ジビエ解体士と出会ったり、ご縁をつなぐために何かしているのですか。
A:何もしていません。本当にたまたまです。
※ 岡本さんは出会える場には積極的に出て行って人とつながろうとするところはありますよね(鍋屋)。
Q:ジビエ解体施設の場所の決め手は何だったのですか。
A:雑種地だった幹線道路わきの土地の持ち主から、快く貸していただけたということです。目につきやすいところに建てることができたので、皆さんに来ていただけているのだと思います。
Q:地域の農作業の手伝いに行くという話がありましたが、人の確保など大変ではないのですか。
A:農作業受託は、自分たちだけで行くのはやめようと考えています。土日などの休みにサラリーマンの副業としてチームを作ることができないか検討中です。
熊本大学 理事・副学長 大谷 順氏
大学の教育は、基礎から応用へと順に学ぶことが一般的ですが、塾での議論を聞いていると、塾での学びは、PBLとかOJTとかと同じように、最終的にどういう問題を解決するかを見据えて、それに対してどういう知識が必要かを学ぶという形なのかと思います。大学教育でもそういう方向の学びが有効だと考えていて、新設する共創学環でもそういう形の教育を盛り込んでいこうとしています。
未来創造塾でも新しいプロジェクトがどんどん生まれるのを楽しみにしています。