今年度からの新しい試みとして、金岡先生のアーカイブによる講義と鍋屋先生のオンライン講義のハイブリッドでの塾となりました。
熊本大学副学長・熊本創生推進機構教授 金岡 省吾氏
初めに、熊本のある高校での話です。仮に生徒が100人いるとして、将来は地元で活躍すると思う生徒はどれぐらいいると思いますか? 福岡県で活躍する人はどうでしょうか。
この高校は天草市の高校ですが、天草には企業が3,000社あります。そのうち約75%は事業承継が決まっておらず、なくなるかもしれません。黒字倒産もあり得るのです。この地域はダメだから都会に出たほうがいい、と背中を押す人たちも多いのですが、その結果このようなことになってしまうのです。
私は三和銀行の研究所で地域づくりのデザインを仕事としてきました。しかし、理論で地域は動かないことがわかり、平成18年に富山大学に移って、企業と地域の課題を解決する枠組みとしてCSVに取り組み、4年前に熊本大学に移ってきました。大学では、地域を変えていく大工さんや農家の人、懐石料理人などの人たちと共に地域課題をビジネスで解決する、ローカルイノベーターを育ててきました。そして、進学や就職で地域を離れる子どもたちに帰ってきてもらえる環境を作って、ずっと住み続けてもらうことを考えています。企業と社会の関係を再構築する新しい時代がやってきています。その中で、ローカルイノベーターの卵がスモールプロジェクトを作り出す、これが本当に効いています。
今日は地方創生、そして人口減少のメカニズムをテーマに話をします。若い人たちの意識は変化してきています。今日は、RESASが提供するグラフなどがたくさん出てきます。この図を皆さんが理解して、皆さんがこれから作るビジネスプランとどうつながっているか、をきちんと説明できるようになることが大切です。
富山大学にいたときに、未来創造塾の1つ目として、魚津市と一緒に魚津三太郎塾を開講しました。その取り組みが伊藤園の常務執行役員笹谷秀光さんに取り上げられ、まちてんへの参加やイノベーションアワードへの応募などを勧められ、取り組みが全国に知られるようになりました。魚津の取り組みが高岡、田辺、八代、南砺へ、そして熊本県内、さらに日本商工会議所青年部を通して全国へと広がっています。
まちてんでは、大企業や都市部の大学などが地方創生に関心を持って取り組んでいることがわかりました。また、吉本興業も住みます芸人を地方に配置して、地方創生に協力しています。
2016年頃に消滅可能性都市という概念が出てきました。高校生に消滅というと、「本当に私たちの市は消滅するんですか?」とか「消滅って何ですか?」という質問が出てきました。人口が減って、さまざまな分野の担い手・地域で働く人が減る、そして、地域経済が小さくなり、客が減る、地域の魅力がなくなる、活力がなくなる、医療とか商店とかの生活サービスが崩壊する、これらが負の連鎖となります。それをどうにかしようというのが地方創生です。
人口減少のメカニズムについてですが、RESASの人口増減についての出生数・死亡数 / 転入数・転出数のグラフや、年齢階級別純移動数の時系列分析のグラフ、あるいは地域人口メッシュ分析が役に立ちます。
社会増減では、5歳区分で5年後までに流入、流出した人口を差引した結果がグラフになっています。大学や企業などが少ない地域では、進学や就職の段階で地域を離れる人がたくさん出ます。そして、大学を卒業するなどして就職する際に地域に帰ってくる人もいます。さらに結婚して子育てする世代が、子育て環境などを求めてやってくることもあります。社会増減の主な理由は、進学、就職、結婚、子育てにあるようです。進学に関しては、富山県内には大学などが少なく、進学の際に県外に出ていく人がたくさんいます。行き先は、以前は東京が多数でしたが、今は石川がかなりの割合です。南砺市、富山県から人が出て行ってしまうということについて、このあと皆さんで話し合ってみてください。
私は、市外、県外に出ていくことはいいと思います。今年の塾生の皆さんもいろんなところから南砺市に戻ってきたりやってきたりしたのだと思います。地方創生とはなにか、 人口減少のメカニズムとはなにか、を考え、ぜひ説明できるようになってください。
各グループから、
それぞれに今自分がやろうとしていることと、今の人口減少ががどう関わってるのかについて最初に話しました。例えば、訪問医療を提供して、訪問看護とか介護をする人たちを育てていくことで、地域で安心して住み続けられるようになる、新しい価値が生み出されて住み続けたくなるというふうにつながっていくと考えました。オルターナティブスクールの開校については、人口が減っている中で学校を立ち上げるということはどうなのか、と思う一方、特化した学校をつくることで全国から子どもたちが集まってくる可能性もあると考えました。減っていくことだけを考えるのではなくて、関係人口を増やしていくことに目を向けていく必要があるという話が出ました。
島国の日本で人を取り合っても意味がないんじゃないかという話もありましたが、外に出たとしても戻りやすい場所にしたり、コミュニティをもっと充実させたりする取り組みが必要だという話がありました。石川県への流出や消滅可能性など、これから知っていって、この塾の活動に活かしていきたいと思いました。
まず前提として、人口流出が悪いわけではなくて、問題は戻ってきたいという人に戻ってもらえるようにすることです。つまりそれは 、南砺市に価値をつけることです。地理的なメリットとしては金沢市、富山市のどちらにも容易にアクセスできる点です。例えば、福光のまちなかでは空き家が3割ほどあって、まだ増えそうですが、それを穏やかにしていくことを考えていく必要があるという話が出ました。
熊本大学副学長・熊本創生推進機構教授 金岡 省吾氏
2つ目の論点は、若者の意識の変容です。塾の修了生も成長しています。たなべ塾の1期生、岡本さんの話をします。岡本さんはみかん農家ですが、みかん農家などの高齢化、耕作放棄地の増加に伴って、イノシシなどによる被害が出るようになりました。それがさらに耕作放棄地の増加につながって負のスパイラルとなっていました。そこで岡本さんは鳥獣害を減らして自分たちの畑は自分たちで守ろうと考え、イノシシ駆除に取り組みました。仲間と一緒にイノシシを獲りまくって地中に埋めていたところ、次第に疲れてきたそうです。しかし、イノシシが減って集落のみんなに感謝してもらえるようになり、解体処理施設をいい場所につくることができました。解体処理の得意な仲間が見つかり、フランス料理人もジビエ料理のために帰ってきてくれるなど、みんなで地域課題に取り組むことができるようになりました。
そういう取り組みをしている大人を子どもたちが見ていて、将来の担い手になってくれる若者が増えることにもつながります。岡本さんは自分の子どもに地域で生きていくために農業の魅力を高めて新しい仕事をつくっていきたいそうです。
こんな話を聞いて若い人たちの意識は本当に変わるのでしょうか。熊本大学では、未来創造塾の修了生に話をしてもらう授業を大規模に行っています。まちに新しい価値を生み出す、とか、まちが面白くなる可能性がある、とか、地域で働くのはダサいと思っていたけど意外といいですね、という感想が出るようになります。皆さん方が取り組むビジネスが若い人たちの意識意識 を変えるかもしれないのです。この授業の満足度もとても高く、人気があります。
高校でも、授業で修了生が話してくれていて、いろいろ悩んでいましたが今日話を聞いて地域の課題を悩んでもいいんだと思った、とか、地域から外に出て行ってもいいんだ、とかという感想が聞けました。海外に行きたいそうですが、海外から地域課題を解決したい、と言っていました。熊本大学と連携している高校は現在13校です。
日本の大学も、あちこちで知己課題に取り組むローカルイノベーターを育成する取り組みを始めています。熊本大学でも、塾の取り組みに基礎を置いた共創学環を来年度から開始します。多くの高校生や保護者が関心を持っています。
熊本大学熊本大学地域連携戦略部門客員教授 鍋屋 安則氏
私はこれまで、富山に50回ぐらい行きました。金岡先生が富山大学におられたということです。南砺市にも一度伺いました。
さて、今日は人口減少の話がありましたが、これが根っこにあっていろんな地域課題を引き起こすということです。高校を卒業して地域から出ていき、大学を卒業した後帰ってこない一番大きな理由は働きたいと思える仕事が地方にはないということです。一方で、地域の企業は人材を募集しても確保できない状況です。
このことにチャレンジしている高垣工務店の事例を紹介します。たなべ未来創造塾2期生の石山さんは、今から20年くらい前に契約社員で務めていたのですが、社長が病気で倒れ、当時スタッフ5名の中で契約社員の自分がみんなを率いて会社の再生に取り組みました。そして、顧客満足度一位の会社になりました。社員の似顔絵を入れた広告、高垣工務店の感謝祭などに取り組んで、さらにそこでつながった顧客からの要望を取り入れて、高齢者向けのデイサービスや子ども向けの放課後デイサービスを始めたりもしました。
さらに未来創造塾に入って、コミュニティーづくりの考えを取り入れて空き倉庫をリノベーションして地域の公民館にしました。知理混場です。未来創造塾、飲み会、マルシェなど、地域の人たちがやりたいことをやってもらうことで、将来高垣工務店で家を建てるお客さんになってもらえるかもしれないのです。次第に知名度が上がるにつれていろいろな方が利用することになり、さらに知られるようになってきました。会場費は無料なのですが、イベントが増えるにしたがって高垣工務店の名前も知られるようになり、本業につなげており、さらには面白い取り組みをしていると、この会社で働きたいという若者も集まってきて、従業員も増えました。
金岡先生の話にもありましたが、大学生の意識は変わってきてます。地方創生に関わりたいっていう学生が一定数いて、地域課題解決に役立つ仕事がしたいと言っています。そういう学生とつながることで、若者の社会増が実現できるのです。地方創生に取り組む企業もどんどん増えてきています。
各グループから
グループ内ではやりたいことがみんなバラバラなので、1つには絞れないから、個別でやりたいこと、全力でやってくことだね、という話をしていました。例にあった工務店さんの話だと、ある意味1つ事業を成功させた上で、そこでの利益を地域に還元するという形ですが、私たちはまだ本業かこれからというところで、真似することは難しいと思いました。地域のためになることでマネタイズできないか、ということを話していました。
(鍋屋氏からのコメント)
その関係だと、田辺では飲食や宿泊関係が多いですかね。本業で収益を作ろうとしてる塾生が多いです。本業をやりながら、コミュニティをつくって地域の課題に一緒に取り組む形が多いです。例えば子育てのコミュニティをつくって、お客さんにも得してもらうようなことが多いです。
南砺市では、井波の彫刻師さんなどはつながりがあるそうなんですが、そのほかの多くのクリエーターの皆さんが横につながるようなコミュニティがあれば、例えばネットで完結するようなビジネスは孤独なので、よいと思いました。また、コミュニティは武器になるという話がありましたが、コミュニティが年齢で分断されていることが多いので、子どもと大人が関わり合える14歳の挑戦のような、子どもが大人の働く世界を知ることができる場などが増やせると思います。
(鍋屋氏からのコメント)
異なる年代の交流ってなかなか難しいと思います。でも、今、子どもに働くことを教えていくのはとても重要ですよね。地域から離れる前に地域の大人を知るのが重要です。やはり、子どもちの意識を変えるのは、地域の大人ですね。
子どもへのアプローチを中心に話していました。子どもに、将来の職業を聞いても、会社員とか公務員のような単語しか出てきません。一方でYouTuberになりたいという子どもも多くて、楽しいことが仕事になるからそれでいい、というような考えもあるようです。南砺市には、魅力的な伝統産業がいろいろありますが、地域の人にとっては特別感はないので、それの持つ価値を見直してもらうには、子どもの頃から触れることも大切だという話が出ていました。
(鍋屋氏からのコメント)
先ほどの岡本さんの例で言うと、農業なんてしたくないという子どもがとても多いのですが、地域の小中学校に年に何回か話に行くと、子どもたちが、岡本さんのことを地域の自慢として挙げてくれるようになったそうです。実際に農家になるかどうかはわかりませんが、意識は変わるみたいですね。
<その他の意見交換>
子どもに大人の働いている姿を見せることが大事なんじゃないかという意見がありました。南砺市は散居村で家々が離れているので、子ども同士が遊ぶような環境がなかなか作れません。そんな状態で、親が子どもに、習い事がない、塾がない、遊び場がない、などと言っているうちに、子どもが無意識で、田舎には何もない、という考えになってしまうのかと思います。
(鍋屋氏からのコメント)
どこの地域でもやはり、親が子どもに、何もないから帰ってこなくていい、とかいうんですよね。その親が胸を張って帰って来い、と言えるような地域にならないと、やはり帰ってきませんよね。誇りに思える地域にみんながしていくことが人口減少を食い止めていくのではないかと思います。