6日目は、超高齢社会におけるビジネスのあり方について、岩名さんにご講演いただきました。今回は、山鹿市のYAMAGA BASEを会場に、やまが、たまな、きくちの3つの塾が現地参加し、あまくさ・あそ・なんと・こまつ の4つの塾がオンラインで参加しました。講師の岩名さんには、毎年塾で講義いただいています。
「超高齢社会の地域ビジネスの可能性」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 岩名礼介氏
(山鹿市YAMAGA BASEでの様子)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 岩名礼介氏
高齢者の定義を知っていますか?厚生労働省では、75歳からの高齢者(後期高齢者)を主な福祉施策の対象とフォーカスしています。
日本の高齢化率は約30%で、世界で一番高く、日本は人類史上初めての体験をしています。また、高齢者と言って皆さんが子どもの頃の高齢者と今の高齢者では、人生の中での体験が全く違います。
皆さんが子どもだったころの高齢者として、1920年生まれの人を考えると、小さいころには乳幼児死亡率が高く、小さいときにきょうだいを亡くした人も多く、20歳の頃には第2次世界大戦で身近な人が亡くなった体験があります。また、成長してからも病気などで亡くなる人が少なくなかった時代です。日本に介護保険の制度ができたのが2000年で、この年にこの人は80歳になります。日本では要介護になる年齢の平均が81.5歳なので、このころに介護施設等に入っている人は、自分は思いがけず長生きしたな、と思っていたと思います。
一方、1960年生まれの人は、2035年に75歳になり、2040年に80歳になります。物心ついたころには東京オリンピックがあり新幹線が開通しました。日本は高度成長期で所得倍増、経済では世界第2位になります。バブルの時代を体験した世代で、亡くなる人も少なくなり、生き残るのが当たり前の世代です。
後者の世代がこれから高齢者になっていく中で、市場の高齢化と高齢者ニーズの市場化が起こります。皆さんのビジネスが何であれ、お客さんは高齢化していきます。また、逆に高齢者のニーズを市場化することも可能です。
高齢者は、平均すると80歳くらいから少しずつできないことが増えてきます。食事の準備も難しくなります。今の日本で一番多い世帯構成は一人暮らしです。調理ができなくなるなどしても、世帯の中で支えてくれる人はいません。さらに、若い人が確実に減っていますので、ビジネスを通してさえ高齢者の生活を支えきれなくなる可能性があります。
着眼すべきなのは、75歳以上ではなく85歳以上だと思います。日本全国で、85歳以上の人口は2035年には人口の10%を超えます。食事がつくれなくなる人が人口の10%を超えるということです。80歳を超えると、運動しなくなる、外出しなくなる、運転免許を返納して車の運転ができなくなる、こういう人が1000万人を超える時代が来ます。しかし、所得が高い人も多く、お金を払ってもいいから生活を支えるサービスがほしい人もたくさんいます。ニーズに合ったサービスが提供できれば利用は伸びます。
要介護認定率の上昇が急激になるのは80~85歳のゾーンで、ここで一気に生活が難しくなります。しかし、支える側のリソースが不足しているので、家で生活しながらサポートを受けるようなサービスが広がってきました。さらに、本人が望むと望まないとに関わらず、生活できない場合には町を出ることになります。そしてさらに人口減少が進み、ビジネスが先細りしていくという悪循環に陥ります。それを防ぐためにも高齢者を対象とした生活ビジネスを作っていくことが大切です。
訪問介護サービスには、利用者の体に触れる身体介護と触れない生活援助があり、掃除、洗濯、ベッドメイキング、衣服の整理などの生活援助はホームヘルパーでなくてもできます。一方、最近は訪問介護職の求人に応募する人も減り、在宅でサービスを受けることが難しくなってきています。そのため、民間企業も有料でのサービスを提供するようになってきています。
高齢者が生活するうえで食事と洗濯などで不都合が生じる状態になったら、特別養護老人ホーム、グループホーム、住宅型有料老人ホームなどに移ることを考えますが、金額的に折り合いがつかないことも多く、便利な大都市に出ていくことになります。
在宅での生活が難しくなると、施設を転々とすることになりますが、施設側も手が回らず国は在宅での生活を推奨しています。しかし、在宅高齢者を支えるヘルパーが不足しているので、食事、運動、人との付き合いというような場面で新しい地域ビジネスで注目されています。地方ではコミュニティが小さく、相手の困っていることがわかりやすく、助け合いが成り立っています。大切なことは、人と人とが接触する場所をつくることです。その際、最近の高齢者は楽しいことをいっぱい知っている人たちであることには注意すべきです。今のデイサービスでは満足できない人も多いのです。短時間のサービス提供も考えるべき視点です。サービス内容も多様化しています。
Q 母がデイサービスを経営しています。高齢者の割合が増えていくのはその通りだと思いますが、難しいのは2040年頃から高齢者が減っていくということで、これからどのようにサービスを展開していけばよいでしょうか。
A たとえばスーパーの客も減っていきます。この先15年ぐらいは高齢者の方の生活を支えるニーズは減ると思います。その先は10年間ぐらい横ばいが続いて、その後2055年頃に団塊ジュニア世代の山が来ます。ただ、地方では、次の山はありません。団塊ジュニア世代が都会に出て行ってしまったからです。だから、町を出て行った若者が戻ってくることが大切です。塾に皆さんが集まって、楽しい、面白い場所が増えれば、残る人たちが増えます。介護保険だけでは需要は減るので、介護保険の手前で困っている人のためのサービスを展開することが大切です。1人2役3役というビジネスをしないと地方では生きていけません。
Q 私は研究側から地方の消滅を見てきたのですが、日本社会では今後大きな価値観の変化がないとこれらの課題は解決できないと思います。制度的に社会福祉と介護の間などの縦割りがたくさん残っていて、住民の価値観だけでなく、行政の考え方や法律なども変革も必要だと思っています。1つの例として多世代で一緒に住んでコミューンみたいなのを作ればいいという考え方もあると思うのです。お金のない若者たちが高齢者と一緒に住めば安上がりになり、自分たちの仕事、力を提供するような、お金以外の媒体を考えていかなければならない時代に来ていると思います。
A 今のがお答えだと思います。例えばホームヘルパーは生活に必要なことを全部カバーしてるわけではないのです。例えば1人で暮らしている高齢者宅にペットがいる場合、その餌やりや下の世話などはホームヘルパーはできません。しかし最近は行政が工夫すればペットの世話もできるようになりました。事業者のビジネスの内容もどんどん広げていくのがよいと思います。
Q 山鹿市で時計とジュエリーの販売・修理をしています。店舗は60年以上続いていて商店街の一角にありますが、多くの店舗がほぼ高齢者の1人暮らしです。定期的に来店するおじいさんと以前連絡先を交換したところ、電話があって、一緒に住んでる息子夫婦が外食するので、自分は1人で食事をすることになるから一緒に食事しないか、というお誘いでした。何度かお断りしたのですが、一回は行ってみようかと近所のご飯屋さんで一緒に食事をしました。息子夫婦のことなど楽しそうに話していて、つながりは大切だと今日の講義の話と合わせて思いました。
A 1対1だと個人で背負うことになり、その高齢者だけが幸せになるということになります。地域で考えると、おしゃべりしたい人が確実にいて、家族と同居していてもそうなのです。しかし商店街に話ができる場がないとすれば、どんな仕掛けをするか、食や遊びとどう結びつけるか、を考える必要があります。今は、健康マージャン教室が人気です。男性が多いゲームで偉ぶれるのが魅力のようで、そのような場で物を売ると利用料を取るとかもありだと思います。
Q 南砺市で学習塾を経営してます。私は2002年生まれの学生です。高齢者の方々の人生をしっかり考えたことがなかったことに気づきました。ただ、人口減少する中で未来を考えると、議論がネガティブになってしまって、面白く楽しく話ができないのでつまらなく感じました。どうしたらこの楽しくない議論を楽しくできるか、が今回の味噌なのかと思いました。どうしたらそのように見方を変えることができるのでしょうか。
A とても正しい感想です。やり方を知っているのは自分自身だけです。見方を変えるのは自分の問題です。今日はネガティブな情報から話しましたが、後半に事例を説明します。ただ、それをコピーしてほしいということではないし、面白いと思ってそれにインスパイアーされて自分で考えてください。地域の中で孤立して、困っている人をどうやって見つけるか、繋がれるか、その方法を考えて欲しいというお題です。 そこには面白い仕掛けが必ずあるはずで、紹介する事例はその結果に過ぎません。そこを面白くやってください。
後半はベーシックなことから話をしたいと思います。要支援というのは、外出はちょっと難しく遠出はできないけれども家の中のことは大体自分でできる、というような、ちょっとだけできなくなっている状態です。トイレは自分で行けるし着替えもなんとか自分でできるけれども、買い物に行っても重いものは持って帰ることができない、調理しようと思ってもご飯が炊けるくらいというイメージです。
そういう人が介護保険を使って何を頼んでいるのかというと、掃除機での掃除、トイレ掃除、拭き掃除、風呂掃除など、介護職でなくてもできることがほとんどです。しかも、これらは今は民間のビジネスになってきました。ただ、人口減少が激しい地域ではこれだけを対象にしたビジネスはロットが小さすぎます。このビジネスの対象になるのは、人口1万人当たり150人ほどです。介護保険の対象が重い人たちになって、この150人への支援がなくなってきています。ちょっとしたことができなくて生活がだんだん荒れていくのです。
事例として最初にとくし丸を紹介します。個人事業主がスーパーの商品を移動販売車で販売するというビジネスです。今では全国どこにでもあります。1個につきいくらかのお金が上乗せされていてそれが利益になるというビジネスです。
2つ目はでんかのヤマグチです。えこひいきする電気屋です。普通の電気屋さんですが、商品が高価です。でも高齢者の人たちがここで 買うのです。買ったものが壊れた時も直してくれるし、買ったものでなくても御用聞きだと思って相談に乗ったりして、商品が高い分は会費のようなものと考えられます。修理で出かけた途中で立ち寄ってサポートするというやり方です。
3つ目はのびしろハウスというアパートです。一階に高齢者、二階に学生が住んでいて、学生がお茶に行ったり、毎朝あいさつをしたりするルールがあります。さらに、喫茶店、コインランドリー、訪問看護ステーション、クリニックも入っていて、高齢者の安心感に繋がっています。
4つ目が喫茶ランドリーです。グラウンドゼロという会社がやっている喫茶店とランドリーが一緒になっている店舗です。ここがうまく地域の交流の場となっています。
次はタスカジです。いわゆる家事援助サービスですが、フリーランスの人たちが登録してアプリでマッチングしてくれるサービスです。私も料理の作り置きを作ってもらうために使っています。
次は陽だまりクラブです。大きめのスーパーの一角にあって、利用者と活動者を仲介して、活動者が有償ボランティアとしてサービスを提供するしくみです。賃金労働ではなく、手伝いする人が活動者として登録し、最低賃金より低い活動費を受け取る仕組みです。市からも助成金が出ています。
次はチョイソコです。企業がスポンサーになって、その企業のところにバス停があります。今81市町村で展開していて、病院やスーパー、クリニック、カラオケボックス、喫茶店など高齢者が行きそうな企業などに、スポンサーにもらう、オンデマンドシステムです。
ポイントは、完全にそれだけで成り立つようにサービス化しないことです。皆さんのような地元企業がやるということになると、ついでに、ながらに、やるということです。仕事で家に入る、あるいは玄関先に入る、というようなビジネスとの親和性は高いと思います。ヤマト運輸が行っている、IoT電球を使ったクロネコ見守りサービスもこれだと思います。サービスが必要になったときだけ、ついでに、できることを考えることが大切です。それが高齢者を引き付けたり、企業のロイヤリティを高めたりします。
また、地域が小さくなっていき、分業が難しくなっていく中で、一人が何役も担っていくことが必要です。それがまた新しいサービスを生み出すこともあります。介護保険が埋められなかったニーズを地域の人が埋めてあげる、ちょっと気にかけてあげることが、地域で生活し続けるために重要です。
Q 医療福祉関係の仕事をしています。私の事業はデイ サービスや訪問看護なのですが、制度上の制約がある中で仕事をしています。働き手がなかなか確保できない状況で、今のサービス以外のサービスをどうやって実施していくのか考えさせられました。介護保険外の自主サービスを提供した時に、利用者が高い金額を支払ってくれるのか、疑問を持ちました。
A 1万円で済んでいるのを来月から5万円にするとしたら誰も払いません。しかし自費のサービスは、最初から自費で使っている人は払います。お金を払うことが自分にとってどれぐらい意味があるかかを実感してもらわないといけないので、プレゼンテーションはすごく重要です。また、介護保険を使って在宅で生活してる人の1ヶ月の負担が4万4000円を超えることは基本的にありません。しかし、在宅が難しくなって施設に入ると10万円を超えます。東京だと20万を超えています。そのことを考えれば在宅であと10万円出して生活をサポートしてもらう方がいいという考え方も成り立ちます。さらに介護保険では、家族は面倒を見てもらえません。介護保険とは違う魅力的な発想でビジネス化できると思います。
Q 小松市で飲食店を経営しています。コロナ禍の前にはお昼時には近所の高齢者で満席になるような状況で、電球を交換してほしいとか湯沸かし器の調子を見てほしいとか、いろいろな要望があって、スタッフで対応していました。しかし、コロナ後にはお客さんが来なくなりました。持ち家の町屋があるので、高齢者旨のアパートに改装しようと考えていますが、消防法をクリアするのも難しいですが、高齢者で障害のある人への対応を考えるとなかなか踏み出すことができません。どうやって乗り越えたらよいでしょうか。
A 場所を見ていないので、今の言葉で引っかかったことだけ言います。1つは介護保険の制度の方に寄っていかない方がいいです。制度の中に取り込まれて自分たちの良さとかその場が持ってる可能性を潰していくことになりかねません。
もう1つは、地域共生制社会の中で分野・年齢・性別を超えて、と言っていますが、全ての人が使える場所が1番いと思います。ターゲットを絞って作ったけれども誰が来てもいいよ、という場所の方が優れています。古い建物を改造して作ったカフェでそんな場所が好きな人だけが来てくれればよくて、その中には高齢者もいればたまたま障害のある人もいるけど、その人たちにとって使いやすい場所だったらそれでいいのであって、全員が満たされる場所を考える必要はありません。民間の皆さんには自由に場所を解放してください。