5日目は、こまつ地域未来創造塾との合同開催で、なんと塾のメンバーが小松市のCHABU HASADANIに行き、こまつ塾の皆さんと合流しました。CHABU HASADANIは旧波佐谷小学校を改装した施設で、とてもきれいなところでした。
この日は、事例紹介①「たなべ・なんとの事例」と題して、以下のように講義いただきました。
・「バリューチェーンとは」
熊本大学 客員准教授 鍋屋 安則氏
・「GHIBIERで地域循環を創る」
(株)日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ1期)
・「暮らしを彩る、世界と地域の交差点 メティス」
第一交易(株) 取締役 西能 立氏(なんと3期)
熊本大学 客員准教授 鍋屋 安則氏
私は田辺市の職員です。田辺市ではたなべ未来創造塾を立ち上げて担当してきました。昨年から熊本大学で客員准教授になり、田辺市の仕事もしています。
今、地域づくりは大きく変わってきています。企業は、以前は大量生産大量消費で稼いだお金の一部分をCSR活動に使っていました。しかし、人口が減少する時代になって、企業は地域の課題を解決しながら利益も上げていくというCSVに取り組むようになってきました。最近では、国でもCSVに取り組むローカル・ゼブラ企業を増やすという方向性を示しています。また、総理大臣が代わり、地方創生にもっとお金をつぎ込むことになりそうです。これらのことから考えると、未来塾の活動はこれからもっと広がっていきます。これからは、成長はそれほど大きくないが、みんなで協力してWin-Winの関係を作り出す企業が求められてくるということです。
バリューチェーン・サプライチェーンでは、小売業が力を持っていて、安く仕入れるために買いたたくようなこともありましたが、これからは、みんながWin-Winになるように新しい価値を生み出して、例えば小売り価格が高くなったとしても、消費者に理解してもらえるような形の流通改革が求められています。
田辺市の事例の中で、田上さんという米屋さんの取り組みを紹介します。最近は米をスーパーなどで買う人が増え、米屋は儲からなくなってきました。一方で、田辺市では水田面積が減少しています。コメを作っても儲からなくなって、農業従事者が減り、耕作放棄地が増えてきました。
そこで、田上さんは熊野米というブランド米をつくることにしました。梅干しの味付け用調味液は産業廃棄物として捨てられていましたが、肥料成分があり、除草効果もあります。また、梅干しづくりの残渣でたい肥を作ることもできました。これらを使って作った米を熊野米としてブランド化したのです。
そしてその米を、農家がきちんと収入が得られるような値段で買い取ることにして農家も儲かる仕組みにしました。しかしそれでも耕作放棄地が出てくるので、自分でも稲作を始めることになりました。さらに、米粉を使った加工品を開発したり、熊野米を使った日本酒造りを行ったりしました。そして、米を卸していたカレー屋さんが廃業になりそうだったので、事業承継してカレー屋も経営することになりました。
この事例は、自分で米の生産から販売までの一連のバリューチェーンを作ったものです。さらに異業種とのコラボも増えたということです。
この後の二人の話もバリューチェーンに関係していますので、ぜひ参考にしてください。
(株)日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ1期)
8年間サービス業に携わっていたのですが、家業の農業を継ぐことになって、こんな面白くない仕事はないんじゃないかと思い、挫折しそうにもなりました。人との関わりも少なく、何のために梅やみかんを作っているんだろうかという疑問がわいて、ストレスも感じました。私の農業はそこからのスタートでした。
田辺では、農業の担い手不足から耕作放棄地が増え、鳥獣害も増えました。このままでは、農業を継いでくれる人がいなくなります。私は長男なので、何となく農業を継ぐべきなんだろうと考えていて、父の病気をきっかけに農業を継ぐことにしました。しかし、私の畑にもイノシシやシカの被害が増加してきました。ハンターも減少し、駆除ができない状況にもなりました。
そこで、自分たちで狩猟を始めることにしました。動機は危機感です。仲間でわな狩猟免許を取得し狩猟チームを結成したところ、年間120頭ほど捕獲できました。罠にかかったイノシシやシカは、撲殺して近くに埋めていました。しかし、撲殺を続けていくうちに精神的につらくなってきましたし、子どもたちにやりたいという気持ちを持ってもらえるようには思えませんでした。自分のやりたい農業でもありませんでした。
私は、農業のイメージを変えたいとも思っていて、それには地域循環が面白いのではないかと考えるようになりました。しかし、私にはジビエの加工処理はできませんでした。しかしたまたま、和歌山市でジビエの卸をやっていて解体技術もある、しかも施設を自分で運営したいと考えている人に出会い、一緒にやろうと誘いました。
ジビエ加工処理場は迷惑施設とみなされることが多いのですが、今まで取り組んできた成果も評価され、地域のためにやるという活動だということで、地域の人には反対されませんでした。しかし、県の人から全国のジビエ施設では赤字がほとんどだと言われ、調べたところ、処理場を運営するためには精肉にできる個体が年間600頭必要だということがわかりました。また、販路が確保できず大きなストックスペースが必要となるケースも多いようでした。そこで、農協の総会などに呼んでいただいて、イノシシなどを捕獲したらこちらで引き取って処理するので協力してほしいとお願いしたら、年間600頭を確保できるようになりました。現在は60以上の販売先も確保しています。利用できない部分については、今のところ処理業者に引き取ってもらっています。また、ストックスペースもなしで運営できています。
ジビエ施設と私の会社は、一緒に取り組んでいるのですが、事業は分けて運営しています。このような形にすることでうまくいっているのだと思います。
また、長野でフランス料理のシェフをしている幼馴染と会う機会がありました。ジビエの話になり、将来地元に戻ってきてレストランをしたい、と言うので誘ったところ、3年後に戻ってきてレストランを開店し、ジビエ料理を提供してくれることになりました。これで、この小さな地区に地域循環を生み出すことができました。地域課題がこの地区に人を引き付けたのだと思います。
日向屋では、農作業受託や農業体験、耕作放棄地再生、研修生受け入れ、加工品製造販売、学校などとの連携、観光プロモーションなどの事業を通して、関係人口を増やして、みんなで持続可能な地域づくりを目指しています。今後、新しいプロジェクトも計画しています。お楽しみにしてください。
補足説明
・農業をきっかけとした関係人口づくりについては、収穫作業ではなく、苗植え作業のような活動を中心として、オーナー制のような形で収穫までを楽しめるようにしています。
・スタート時の農業については、父と一緒に仕事をしましたが、土日祝日はないし、決算書を見ると儲けが少ないことがわかりました。なぜ農業は儲からないのかを考えてみると、自分の作ったものに自分で値段が付けられず、収入がコントロールされていることがわかりました。そこで、自分で道の駅などに直接売ろうと考え、車でみかんを運んで、飛び込み営業や対面販売をしました。大変ではないか、と言われますが、私にとって苦労ではありませんでした。自分に合っていたのです。もし、このような営業を思いつかなかったら、農業はきっとやめていたと思います。おかげで自分で楽しくやっていくことができました。
・塾に入って、異業種の人たちとのつながりができたことが大きかったです。デザイナーさんや林業屋さんなど、いろいろな方との接点が合って、事業が継続できました。
・日向屋の事業は農業一本です。シングルタスクの方が仕事が進みます。ジビエはジビエ、レストランはレストランというように分かれて事業を進めていまする。鳥獣害という共通の課題に取り組んでいるので、イベントなどでは一緒に協力して行っています。
第一交易(株) 取締役 西能 立氏(なんと3期)
京都の大学から大学院に進学し、地方創生で有名な岡山県の西粟倉村をフィールドに研究していたのですが、コロナの影響で研究が継続できず、富山に戻り父の経営する会社に入社しました。会社は大規模な商業施設の内装などを手掛けています。
未来創造塾に参加したきっかけは、市役所の職員からの声かけでしたが、南砺市を盛り上げたいと考えている仲間と出会いたかったことや、地域活性化を学びたかったことが参加を決めた理由です。なんとの塾の3期生は出席率はとても低かったのですが、その後の事業化率は非常に高くなりました。思いが強い人が多かったのでしょうか、今でも横のつながりを大切にして、南砺市について語り合っています。
塾での講義などから、地域活性化には、子育て世代が重要だと思いました。私の子どもは今1歳ですが、南砺市内には1歳児が220人しかいません。これを南砺市内の9校で割ると、学校の運営も難しいのではないかと思われます。私の同級生は小学生の頃南砺市内に550人ほどいたようですので、子どもが半数以下になってしまいました。このことが胸に突き刺さっています。また、格好いい大人、夢を発信できる大人になりたい、とも感じました。
私が見出した南砺市の課題は、南砺市を誇れる人が少ない、職業・娯楽の幅が小さい、子どもたちが南砺市のいいところを言えない、です。会社の課題は、BtoBで箱ものを作る仕事をしているので南砺市民との接点が少なく何の会社か知られていない、南砺市からの入植者も少ない、個人への訴求力が低い、などが挙げられます。地域に根差した活動ができていないということです。
メティスは、融合、まじわるという意味のフランス語で、コンセプトは「まじわる、ふくらむ」です。私は、他者がいるから自己が認識できるという考え方を大切にしていて、多様な人との出会いや交わりをもとに、世界と地域の交差点、地域に誇りが持てるような場所としてメティスを作りました。
この事業はひとりだけでは難しいので、世界各地との懸け橋を持っていて、地域に根差した活動をしているているスキヤキ・オフィスと共創でスタートさせることにしました。スキヤキ・オフィスは33年続く世界の”今”の音楽が詰まった音楽フェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」を運営していますが、夏のフェスティバル以外に収益がない、全国的にコアなファンはいるが新規ファンの獲得ができていない、拠点がない、という課題を抱えていました。そこで、スキヤキ・オフィスと意見交換を行って、Win-Winになれるメティスづくりに取り組みました。
1階にカフェ&バー、2階に宿泊施設、コワーキングスペース、3階にコンサートや作品展、セミナーやワークショップが開催できるスペースを設け、運営をスキヤキ・オフィスに委託しています。平日の集客、通年でのイベント開催、子育て世代の流入、アートレジデンスの実施、新規顧客層の獲得など、課題も多くありますが、仲間やお客さんも巻き込んで、これからも進んでいきたいと考えています。
また、会社として、子どもに南砺市が好きだと言ってくれるように、メティスとは別の場所ですが、子ども向けの施設「桜ヶ池エコビレッジフィールド」を2年後に開業する予定です。居住と交流を目的として、コミュニティ形成ができるような場所づくりを行います。この施設は、関係人口から2地域居住、さらにはそれを移住につなげるためのステップになると考えています。他者と交わることで地域の魅力を感じ地域に誇りを持て、楽しみが生まれるようなプラスの反応が起きることを期待し、好奇心が世界を開く、をコンセプトに、子どもたちのときめきを最大化するのが自分の使命だと思っています。
補足説明
・当初からアートレジデンスを予定していて、内装はシンプルにしてあります。アーティストに壁に絵を描いてもらうなどして、多くの人に鑑賞してもらうなどを考えています。具体的に誰に描いてもらうなどはまだ決めていません。音楽では、スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドに参加するミュージシャンに事前活動から一緒に創作に関わってもらうような場を、メティスを活用して宿泊して行うような形を考えています。
・宿泊、飲食の営業許可について、建築確認と消防の確認については、200㎡を超えると難しくなるので、それを超えないようにするとよいと思います。宿泊業、飲食(カフェ)については、飲食は簡単です。宿泊業に関しては初めから担当窓口と相談しながら行えば比較的楽かと思います。