4日目の塾も3日目と同様、熊本県内の塾が熊本城ホール大会議室に集まり合同講義が行われ、たなべ、なんとの塾がオンラインで参加しました。
この日は、地域活性化論④「居場所づくり、コミュニティ、共助で地域を変える ~子育て支援とビジネスの両立の可能性~」と題して、以下のように講義いただきました。
・「子育て世代の移入とビジネスの両立」
熊本大学 副学長・教授 金岡 省吾氏
・「みんなで子どもを育てるまちへ cocomamaの取り組み」
(株)ココハレ 代表取締役 大島 恵氏
・「スポーツを通じた共助のまちづくり」
(一社)くま川スポーツアカデミー 代表 松嶋 純也氏
熊本大学 理事・副学長 大谷 順氏
未来創造塾は、地域課題を解決するCSVに関わる人材育成やビジネスの実装を目的として開講しています。昨年度は、熊本県内では八代、阿蘇、天草、玉名、菊池、山鹿、和歌山県内では田辺、富山県内では南砺の全国8カ所で未来創造塾を行い、これまで307名の修了生を輩出しています。今年度は新たに石川県の小松も参加し、合計9カ所となっています。
また、未来創造塾を起点として、高校連携事業も進めていますし、都市圏企業との連携による事業も連動させています。高校連携については、高校生に塾修了生が講演を行うなどすることで、高校生の地域への愛着が深まっているという効果が出ています。将来、地元に帰ってきたい、地域外から地元に関わり続けたいというように意識の変容が起こりつつあります。
熊本大学では、地域連携の新戦略として中学校、高校、大学、そして社会人まで一環した教育改革を行うため、令和8年に共創学環を設置します。産学官金の連携を強化し、地域社会の様々な課題解決に貢献し社会イノベーションを担う人材を地域の皆様と共に育成していきます。
熊本大学 副学長・教授 金岡 省吾氏
これまで人口減少やそれに伴う地域課題などの話をしてきました。今日は子育てをテーマに話します。
人口減少について少し復習したいと思います。人口減少を歯止めする地方創生では、東京一極集中、あるいは東京以外でも札幌、仙台、広島、福岡への人口移動が顕著です。しかも東京では合計特殊出生率が全国で一番低くなっています。
全国各地の人口推移についてみると、熊本県、和歌山県、富山県などすべての地域で減少が予想されています。横浜でもバスの便数が減少するなど、田舎だけでなく都市部でも課題が生じています。地域でタクシーやバスを運営したり、保育所やデイサービス、スーパーなどを経営したりするような、小さな拠点を地域の人や企業がつくることで解決している事例がたくさんあります。
今日は子育て支援についてお話ししますが、子育て世代も便利な地域に転出しています。それを食い止める方法として、魅力的で人が集まるようなコミュニティが効果的だと言われています。前に、長野県の下條村の事例を紹介しました。道路工事を住民が行って、節約できたお金を子育て支援住宅建設に使う、という事例でした。自分たちで生み出したお金なので、入居者に対して、村に貢献してくれる人に限るという条件を付けることができました。
また、千葉県の流山市では、母になるなら流山、というキャッチフレーズで、ターゲットを絞ったプロモーションを行い、特にソフトの部分を充実させることで、子育て世代が移住してきました。
大手企業では、積水ハウスが、道路をイベント広場に作り変えてコミュニティをつくるという提案で工事を受託しました。旭化成では、子育ての喜びを共有できる、お母さんの思いを大切にする賃貸住宅をつくりました。コミュニティのある住宅は人気があるようです。良品計画でもコミュニティをつくる事業を行っています。
地域の中小企業ではなかなか難しいところはありますが、最近はローカルゼブラと呼ばれる企業が次第に力をつけてきているようです。
富山県舟橋村の事例を紹介します。舟橋村では、子育て共助のまちづくりをキャッチフレーズに、いろいろな取り組みを行ってきました。例えば、公園を作ってみんなが集まるマルシェを開催することで、ここだったら住んでもいいと思う人が増えました。増田さんの本でも紹介されていますが、人口が1500人から3000人に一気に増えました。富山市から電車で15分ほどの日本一小さな村です。村では、市街化調整区域を変更して住宅地を増やしました。富山市よりも地価が安いので安く家が建てられることで、多くの転入がありました。この転入では一軒当たり平均3人で、両親と子供一人、という形の転入が多かったのです。
さらに転入を増やすために、村では役場職員を集めて、村外の成功事例やこれからの村の人口推移を研究する勉強会を開催しました。舟橋村では、もともと住んでいた住民と転入してきた住民がうまく融和できない状況がありました。また、多くの転入があったため地価が下がらず、周囲に比べて高い状況になり、村の住宅はそれほど人気がなくなってもいました。村の出生率も、国の統計では高く見積もられていましたが、実際には子どもを連れて転入してきただけで、村に来て生まれたというわけではありませんでした。
そこで、多くの成功事例を参考に、民間の力で、子育てしたくなる、出生率が上がるようなコミュニティを作る、ということになりました。PPP/PFIという形で協定を結んでKPIを設定して事業を行ってもらうやり方では、地域企業にはノウハウが少ないため、役場職員も伴走して地域企業と一緒に取り組めるように方針を変更しました。転入世帯数や生まれる子どもの数、そして企業がビジネスとして関わるというKPIを設定して、住宅、公園、保育園が一体となったまちづくりをすることになりました。それを実現するための勉強会を開催し、仕様書を作成し直して、説明会をやり直し、地域企業を含め7社が参加しました。結果的には大企業に決まりましたが、勉強会の成果もあって地域企業も高い評価を得ていました。
舟橋村の、ないづくしの子育て支援センターでは、場所はあるもののいろいろ足りない部分が多く、そこが保護者が関わってきてくれるきっかけ作りになりました。そして、利用登録者がどんどん増えていって、村外の人の方がずっと多くなりましたが、それも移住のきっかけとなりました。また、公園は、子どもたちも交えて造園業者も加わってコミュニティをつくり、子どもたちが公園部長となって公園の楽しい使い方を考えました。
「みんなで子どもを育てるまちへ cocomamaの取り組み」
(株)ココハレ 代表取締役 大島 恵氏
今から7年前に夫の故郷である魚津市に家族で移住してきました。移住した時にオーダーメイドのマカロン専門店ココマカロンを開業し、その翌年にココママという団体を立ち上げました。
ココマカロンは、手作りのマカロンの上に1つ1つイラストを描いて販売する、全国でも珍しいマカロン屋です。ありがたいことに、全国から注文が入るようになりました。ココマカロンは心を込めたマカロンという意味です。送る人も送られる人も笑顔になるスイーツで、送られた人がまた誰かに送るというリレーが全国に広がりました。
最初は小さな一室でしたが、その後増築し、今は自宅の横に店舗と工房を構えました。ネット販売に力を入れて、今はスタッフ8名となっています。私はマカロン職人と称していますが、職業は自分で作れる時代だと思います。
ココマカロンの経営する中でママのあり方を考えることが多くなり、女性にはワークライフバランス、子育てと家事と仕事をすべてやりこなすのは難しいことがわかりました。また、ママに戻らなければならないタイミングもあり、「ママはシンデレラ」だと思っています。この状況を何とかしたいと考え、ココママを立ち上げました。
ココママは、子育てをしているママだけでなく、女性みんながもっと暮らしやすく働きやすくなる社会を目指していろいろな活動しています。具体的には、マルシェや女性移住希望者向けのツアー、座談会・勉強会、自然体験会、婚活パーティー、ファミリーワーケーションなどです。
このような取り組みを通して、魚津を女性が元気な街、子どもを育てたくなる街にしています。
(一社)くま川スポーツアカデミー 代表 松嶋 純也氏
熊本県多良木町の出身ですが、サッカーが好きでサッカーを仕事にしたいと考えて新潟県でサッカー専門学校に通いました。その後八代に移り、スポーツ、特にサッカーを仕事にし、21歳から35歳まで八代に住んで、今は宇城に住んで八代に通っています。
私は、一般社団法人くま川スポーツアカデミーを経営しています。サッカーとダンスの二本柱で、サッカークラブチームとダンスクラブチームを抱えています。施設は4カ所あります。また、現在小学校5校のサッカー部をサポートしています。6つの保育園と契約して体育の指導にあたっています。公式LINEも運用しています。
今日は皆さんに3つのことをお伝えしたいと思います。1つ目は共助のまちづくり、2つ目はコミュニティが武器になること、3つ目は未来創造塾のすばらしさです。
八代は人口約12万人です。課題はやはり人口減少・少子化です。どのビジネスも同じかもしれませんが、私のビジネスもどうやって行ったらよいかという問題があります。一方で学童保育の待機児童も課題となっています。
くま川スポーツアカデミーは、小学校低学年の会員がとても少ない状況でした。夜7時から9時にサッカーやダンスの練習があるのですが、低学年には酷で、保護者も共働きが多く送迎が難しいということでした。そこで学童保育と習い事を一緒にしたらよいのではないかと考え、学童保育を立ち上げました。学校に迎えに行って、学童で宿題をして、それからサッカーとダンスのコースに分かれるという形です。6時から6時半くらいに保護者に迎えに来てもらうようになり、保護者の負担も減って、自然に会員が増えました。。
この取り組みには他の塾生にも手伝ってもらっています。そのおかげで、子どもたちも成長してくれました。また、休日に子どもたちが習い事を体験する場に、保護者にはマルシェなどのイベントを行って、コミュニティをつくることも実践しました。その際に公式LINEに登録してもらい、登録者は今694人となりました。顔がわかっていて安心ということもあり、LINEでのお知らせだけで集客できる状況になってきています。親子でホリデイというイベントをやったところ、イオン九州の方が来られて、八代のイオンの2階に施設をつくるので入ってほしい、というお誘いがあり、そこでダンスなどを行っています。八代の子どもたちの笑顔をたくさん増やすこともできました。
この塾の学びからスタートした最初の一歩は小さいものでしたが、いろいろな人とつながって大きく育っていくことができたと思います。
熊本大学 理事・副学長 大谷 順氏
大島さんのお話で1番気にいったのは、やはり「職業は自分でつくれる」です。ぜひ学生に伝えたいと思いました。自分のやりたいことをしっかり周囲に伝えて、自分でことを起こせるということだと思いました。
松嶋さんのお話では、お話のテーマにもなっていた「コミュニティが武器になる」です。これもなるほどと思いました。
熊本大学は、この未来塾を基軸として新たに共創学環を設置し、社会に開かれた教育の場を提供する予定です。