4日目の塾は、やつしろ、あまくさ、あそ、きくち、やまがの5塾の合同講義に、たなべ、なんと、こまつ、はちのへの4塾がオンラインで参加しました。
この日は、地域活性化論③「地域課題解決とビジネスの両立」と題して、以下のように講義いただきました
・「人口減少から生じる地域課題」「地域課題に取り組む意義」
熊本大学教授・副学長/共創学環長 金岡 省吾氏
・塾生事例紹介「始めることが次のチャンスに」
熊本大学地域連携戦略部門 地域連携UA 長谷部 大輔氏
・「地域課題に立ち向かう 農人と森の番人プロジェクト『チームひなた』」
株式会社日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ塾1期生)
熊本大学理事・研究開発戦略本部長 大谷 順氏
今年8月に発生した地震、特に八代地域での被害は甚大でした。被災者へのお見舞いを申し上げ、未来創造塾で築かれたつながりが、このような時に支え合いを生むことを期待しています。
未来創造塾は、地域課題をビジネスで解決するCSV(共通価値の創造)人材の育成とビジネス実装にあります。活動実績としては、昨年度までに541名の修了生を輩出しており、今年度は熊本県内で5地域、県外では田辺市、南砺市、小松市、そして新たに八戸市が参加しています。また日本商工会議所青年部(YEG)との連携により、桐生市、蒲郡市、相模原市へと活動が全国的に拡大しています。
熊本大学の今後の構想としては、未来創造塾の実施地域を中心に熊本大学のフィールドキャンパスを設置し企業、自治体、教育機関が連携する持続可能な地域エコシステムを構築したいと考えています。

熊本会場の様子
熊本大学教授・副学長/共創学環長 金岡 省吾氏
日本の人口推移のグラフを見ると、今は人口が減少しています。人口が増える時代と減る時代では地方活性化の考え方が根本的に異なります。人口増加期の施策としては、成長の極戦略として港のインフラ整備と重工業誘致など、列島改造として高速道路・新幹線建設による物流と人の流れの活性化など、テクノポリス構想として例えば熊本空港横の企業団地造成(現在のTSMC進出)など、中枢都市機能の集積として札幌、仙台、広島、福岡などへの都市機能集積(地域連携軸)などがありました。これらの政策は、東京、大阪、名古屋など大都市への人口流出を食い止めるためのものでした。
しかし、時代が変わり、人口減少の段階に入った今、地域の消滅を防ぎ、人口減少をある程度の水準で安定させる地方創生が重要になってきました。
人口流出のメカニズムについては前回もお話ししましたが、若者が進学や就職で地域を離れ、「地元に住みたくない」「格好悪い」といった意識から、地方に戻ってこない負の連鎖が起きています。この負の連鎖を断ち切る必要があります。
未来創造塾が実施されている地域では、広範囲で人口が減少している実態があります。人口減少がもたらす具体的な変化について考えてみてください。
<グループからの報告>
・公共交通機関(バス、電車)の減便や廃線などもこの地域の課題です。
・店舗や企業の減少が雇用の減少を招き、さらなる人口流出につながる悪循環などが起こっています。
バス減便などの問題は横浜のような大都市でも起きています。また、商業施設の成立には一定の人口規模が必要です。ですから、人口が減ると商業施設は撤退していくことになります。
人口減少による「地域課題」として、日用品の買い物難、ガソリンスタンドの閉鎖、イノシシなどの出没、草刈り人材の不足などいろいろ挙げられます。これらの問題は田舎特有のものではなく、横浜や東京など都会の団地でも同様に起きています。人口減少による労働力不足が、生活環境の悪化、耕作放棄地の増加、学校や病院の閉鎖などを引き起こしています。
熊本大学地域連携戦略部門 地域連携UA 長谷部 大輔氏、境 一磨氏
「対話のルール」の際に大切なことは、「耳を澄ませて聞く」「否定も断定もしない」「答えは一つと思わない」「アイデアをつなげる」「心の変容を自分自身に許す」ということです。自分自身の地域の未来について、話し合ってください。
<グループからの報告>
•後継者不足や人口減少を懸念しつつも、変化する勇気を持つ企業を増やし、自分たちの技術力を守り、チャレンジ精神を育むことで、活気あるエリアを増やしていきたいです。
•空き家をビジネスチャンスに変える可能性、子育て世代が給与面を理由に地域を離れる現状、人口が減少しても継続可能な事業の模索、関係人口の創出など、具体的なテーマについて話し合いました。

熊本会場から見たなんと塾
熊本大学教授・副学長/共創学環長 金岡 省吾氏
地域課題の解決策として「小さな拠点」というフレームワークを紹介します。企業や商業施設などが撤退した後、必要な事業を住民出資で運営するケースや、診療所がバスを運営するケースなど、困難をチャンスと捉え、地域でサービスを維持しようとする人々が出始めています。未来創造塾でも様々な取り組みがあり、塾をきっかけとして始めた小さな一歩が大きな変化を生む可能性があります。
地域課題に取り組む姿勢が、自身と周囲の意識変容をもたらし、新たな地域課題発見、新たなつながり創出、新たなビジネスチャンスを生み出すのです。
熊本大学地域連携戦略部門 地域連携UA 長谷部 大輔氏
修了生の地域課題解決事例を3件紹介します。
最初は、和歌山県田辺市でうなぎ屋「太田商店」を経営する太田さんの事例です。大田さんの課題は、うなぎの原価高騰と、自店のうなぎの知名度不足でした。一方、紀州南高梅は、ブランド力は高いが規格外品が発生するという課題がありました。
そこで、解決策として「うなぎと梅の仲直りプロジェクト」を考案しました。食べ合わせが悪いとされる両者をあえて組み合わせて、梅農家は規格外品を高く売れ、太田氏は梅のブランド力でうなぎを売るwin-winの関係を構築しました。
さらにこの後、うなぎの骨を梅農家の堆肥に利用したり、紀州備長炭の灰と組み合わせた特産品を開発したり、耕作放棄地での山椒栽培を計画したり、天草の雑節職人とのコラボ商品を開発したりなど、出会いを次々と新しいビジネスに繋げています。
2つ目は、天草で家業の旅館を継いだ元Jリーグクラブコーチの上村さんの事例です。当初はビジョンを、 旅館を「観光客、地元の人、子どもたち、競技者などをつなげる場所」にする、とし、旅館を改装してカフェを併設し、地元の人の居場所を創出しました。スポーツクラブも設立し、マルシェの開催やスポーツ合宿の誘致にも成功しました。
次第に取り組みが大きくなり、ビジョンは「スポーツ、教育、観光、国際交流を通じて天草から世界につながる未来を作る」という壮大なものに進化していきました。さらに株式会社メントレネッツを設立し、スポーツアカデミーの立ち上げやラオスのプロチーム買収などを実行しました。小さく始めた複数の事業が、人との繋がりによって地域の仕組みとして育って行った事例です。
3つ目は、八代の個人農家3軒で会社「スリーアローズ」を立ち上げた山本さんの事例です。当初のビジネスプランは 規格外の野菜と自身の母校だった廃校の活用でした。その中で「キッチンカープロジェクト」を立ち上げ、廃校跡地でメロン販売会などを実践しました。トマトの廃棄問題に取り組む中で、高森町の耕作放棄地再生事業へと思いがけない形で横展開しました。
現在は「野菜のテーマパーク構想」を掲げ、事業内容が「販売」から「体験・観光・交流」へと拡大しています。取り組む課題や場所は変化していますが、「使われていないものを価値あるものに変える」「地域を元気にしたい」という根幹の思いは一貫しています。
<グループからの報告>
・ビジネスプランは最初からかっちり作るものだという固定観念が覆されました。まず動いてみて、柔軟に挑戦していく姿勢が新鮮です。懇親会のような場からビジネスの種が生まれる点も印象的でした。
•「小さな実践」の難しさについて議論しました。「周りの目が気になって実践が難しい」という意見も出て、ハードルは人それぞれだと感じました。
•多様な視点を取り入れ、他者のやりたいことと組み合わせることで、より良いサービスが生まれるという意見が出ました。
•宮城県から移住し、1年間ビジネスモデルを考えてきたが行動できずにいた経験を共有しました。未来塾への参加自体が「0.5歩目」で、グループ内でやりたいことを話したところ、次々と繋がりが生まれました(別会場からも「今日が0.5歩目」と決意を述べる参加者が現れました)。
「地域課題に立ち向かう 農人と森の番人プロジェクト『チームひなた』」
(株)日向屋 代表取締役 岡本 和宜氏(たなべ塾1期)
私たちの活動拠点である和歌山県田辺市上芳養地区が直面する課題は、少子高齢化、空き家増加など、いろいろあります。また、農業を継続していくためには、「5K(きつい、汚い、危険、結婚できない、稼げない)」というネガティブなイメージを払しょくする必要があります。
特に深刻だったのは、7年前から急増した鳥獣害です。イノシシやサル、シカによる被害が農業にとって死活問題となってきました。鳥獣害が増加した原因は、高齢化によるハンターの激減と、耕作放棄地の増加による動物の繁殖環境の拡大にあります。
私は、「私たちの畑は私たちが守る」という思いで、地元農家5名と狩猟チームを結成しました。活動1年目には、くくり罠を使ってイノシシを1年間で約120頭捕獲し、被害は激減しました。しかし、捕獲した動物を殺処分する際の精神的負担が大きく、捕獲を持続可能にするためにジビエとして利活用する方向に転換することにしました。
ところが当初、県の畜産課からは、民設民営のジビエ解体施設の黒字化は困難、と指摘されました。しかし、赤字の原因が捕獲頭数の不足にあると突き止め、年間600頭の捕獲目標を設定しました。JAに協力を仰ぎ、鳥獣害の課題を共に抱える約80人の協力者を得て、2年目で目標頭数確保を達成し、ジビエの安定供給が実現しました。販路開拓も行い、取引先が60か所以上になり、事業を軌道に乗せることができました。
この成功要因は、共通の課題を持つ農家が集まり、旗振り役が方向性を示したことだと考えています。課題をビジネスとして成立させ黒字化することはとても重要です。
現在の日向屋の事業は多岐にわたっています。
まず初めは鳥獣害対策とジビエ事業です。地域の厄介者を資源に転換し、「地域課題」を「地域資源」にしています。次に、耕作放棄地再生と農作業受託事業です。今までに6ヘクタールの耕作放棄地を再生し収穫量も増加しました。高齢者農家のサポートもしています。3つ目は、加工品製造販売です。自社農園のミカンや梅を使った約20種類の商品を展開し、売り上げの中心となっています。また、商品を通して地域外へも取り組みを発信し、関係人口の創出に勤めています。4つ目は人材育成です。 食育、農業研修生の受け入れ、越境学習の受け入れなども行っています。
これらの活動は、地域の課題を解決しながら新たな価値と収益を生み出すCSV(Creating Shared Value)の実践そのものです。
今後の展望として、新規就農者を増やすことが課題解決の鍵だと捉えて、「サーキュラーファーマープロジェクト」を推進しています。このプロジェクトを通して、日向屋から独立した新規就農者が3名を含め、計5名の新規就農者を地域に創出できました。また、再生した耕作放棄地を提供し、生産から加工、販売まで学べる体制を整えることで、経営できる新規就農者を育成しています。
また、労働環境改善も大切です。 農業の5Kイメージを払しょくし、面白くて儲かるホワイトな仕事になることを目指しています。具体的には、土日祝日は休み、1日8時間労働を徹底し、将来的には1日6時間労働の実現を目標に掲げています。
獣害対策から始まったこの事業は、現在は新規就農者を増やすことで獣害を抑制するという持続可能な循環モデルに発展しています
<グループワークを踏まえた質疑応答>
Q:うまくいかなかった経験はありますか。
A:コロナ禍で売上が5,000円まで落ち込んだときの資金難と、法人化の際に仲間が離れていった精神的な辛さがありましたが、乗り越えることができました。
Q:狩猟チーム結成時の費用負担はどのようにされましたか。
A:チームは任意団体として発足し、免許取得などの費用は自己負担でした。
Q:優れたイメージ戦略の秘訣はなんですか。
A:プレゼン資料や商品デザインは、未来創造塾で出会ったデザイナーの竹林氏に全面的に依頼しています。塾での横のつながりが非常に大きいですね。
Q:ジビエ事業の黒字化の見極めはどのようにしたのですか。
A:適切な血抜き処理等による肉質の確保や、職人による品質の見極めなどが大切です。また、解体作業を見ることができるようガラス張りにして公開するで信頼を高めることができ、取引先増加と黒字化に繋がりました。
<金岡教授からのコメント>
岡本さんや竹林さんなど塾生同士が互いに影響を与え合って成長していますね。また、CSV、パーパスなどの言葉を自分の言葉として解釈しなおしてプレゼン内容に反映させているのもよいと思いました。塾生の皆さんも、提示された情報を自分なりに解釈し、自分の言葉で語れるようになることを期待します。
また、岡本さんは、「地域の課題を解決する力」と「愛着で人々を引きつける力」の2つを兼ね備えていると思いました。